| by 山口 達也

採用広報、PR、ブランディング……それぞれの意味を正しく理解し、活用するには

「広報・PR・ブランディングの違いを教えてください」という質問が、最近の採用系イベントや広報イベントなどでよく飛び交う。

肌感覚として、2018年夏頃から「採用広報・採用PR・採用ブランディング」という言葉がHR界隈で流行りだした。採用戦線が激化する中で、他のビジネス領域の知見を掛け算することで採用が上手くいくという考え方が生まれだしたのが大元だろう。

しかし、問題は「言葉に振り回されて本質を見失ってしまっている担当者が増えている」という現象である。

具体的にどの施策がどう違うのか?どれをうちでやるべきなのか?

これらを担当者が理解していないことをいいことに、バズワードを冠にして自社採用サービスを売ろうとするベンダーサイドの営業活動に黙って首を縦に振るケースも少なくないようだ。

そこで、今回は「広報・PR・ブランディング」の意味合いを事例を用いながら説明していくと共に、今後バズワードが出てきた際に安易に流されないための考え方を解説していく。

概念理解のヒントは「語源」

こうしたバズワードを自分なりに咀嚼する際に大切になってくるヒントは「語源」だ。それぞれの言葉をまずは分解してみよう。

広報:広く報せること。
PR:Public Relations(公・社会との関係性)。
ブランディング:企業らしさを一貫させ続けること(Brand + ing)

※Brandはもともと家畜に焼き印を押して個体を識別すること(Burned)が由来の言葉。

分解してみると少し違いが見えてきたのではないだろうか?

ここで少し分かりづらいのは「広報」と「PR」だ。広報は元々Public Relationsの訳語なのだが、採用広報と採用PRと分かれて言葉が生まれてしまっているように、広報とPRが毎回セットで語られているわけではない。

そこで筆者としては上記のようにPublic Relationsを定義し、広報はあくまで便宜上「情報を自社らしく伝える」という部分にフォーカスした切り出し方をしている(もともとは英語の概念であるため、日本語訳で全てを理解することは難しい)。

とはいえ、概念のみの話に終始してもなかなか分かりづらいと思うので、早速事例を用いながら説明を進めていく。

定義の棲み分けは時系列で考えると分かりやすい

Appleを例に出して事例を考えてみよう。

Appleと聞けばスタイリッシュなデザインと今までにない機能性をイメージするように「イノベーション」という価値が彼らのブランドだと捉えられる。狂気的なイノベーションへのこだわりはスティーブ・ジョブズにまつわる数々の書籍ですでに語られているように有名な話だ。

そして、次にこの彼らの思いがどのようなPRとなっているかを考えると「Think different.」というキャンペーンコピーが重要だということが見えてくる。人によってはこれをコンセプトと呼ぶこともあるかもしれないが、ここを起点に各種CMなどの具体的な広報手段に企業のカラーが滲むように設計されていく。

全体を一度まとめるとこのようなイメージとなる。

Appleのブランド:イノベーション・革新的・斬新さ・スタイリッシュ
AppleのPR:「Think different.」
Appleの広報:記者発表、発表会プレゼンテーション、CM、店舗デザイン…etc

おそらく、ここでブランドとPRの違いが分かりづらい方も出てくるかと思うので補足すると、「イノベーションという概念をターゲットにより伝わる形且つ、自社らしい言い回しにしたらどうなるか?」というものをPRとして捉えると分かりやすい。

長くなるので割愛するが、Think different.キャンペーンでは失われたAppleの理念を世の中へ再度示すために行われたもので、ただ商品の細かな機能的価値を訴求するのではなく「Appleだからこその一捻りした商品」というジョブズの思いやAppleの世界観を伝えた伝説的なキャンペーンがこの「Think different.」である。

この言葉によりAppleが社会に対してどのような存在であるかを明確に打ち立て、そこに紐づく形でターゲットの分かれる商品プロダクトも設計されている。この他にも、開封する時のワクワクを演出するような商品パッケージやApple Storeの内装に至るまで「誰とどういう関係性を築くか?」が細かく設計されているという点で、PRのお手本として非常に分かりやすい。

Anna Hoychuk / Shutterstock.com


次に、上記のように大元の思想とそこからつくりたい関係性を定義した上で、広報を考えていく。

広報に関しては「コミュニケーションの接点数 × 量 × 深さ」の総和であると捉えると分かりやすい。接点数はSNS発信や店舗での接客などのコミュニケーション接点、量に関しては発信量である。深さがやや分かりづらいかもしれないが、これは「その企業らしさが伝わる広報方法」である。

Appleでいえば、言わずもがなかもしれないが「新商品プレゼンカンファレンス」だろう。スティーブ・ジョブズが作り出したあの独特のプレゼンスタイルすらもがイノベーティブで、Appleだからこその広報素材となっている。ブランディングはこうした「ブランドに紐付いたPRと広報」が戦略から戦術まで一貫させることを表しているため、Appleのブランディングは成功していると言える。

前回の記事でもCIが大元であるという話題にもなったように、まずは「どんな思想を社会に発信したいのか?」という企業の意志や哲学を言葉にしていくことが、これらの一連の流れのスタートとなる。

言葉の意味を、自分の哲学と言葉で話せるかどうか

マーケティングやブランディングのように、抽象的で違いが分かりづらい言葉はHR界隈以外でも多数存在する。こうした定義の大きい言葉はしっかりと概念理解をしておかないと、ベンダーサイドに振り回されてしまうことに繋がってしまうため、採用担当・広報担当者は腑に落ちるまで理解を深めることが重要だ。

そして世間一般的な定義を知りつつも、どの言葉も自分の頭で改めて意味を捉え、人に説明できるようにすることが最も大切だと個人的には思っている。

というのも、自社だからこその戦略は「自社で定義された言葉」の上で生まれるものだからだ。

例えば、ブランディング屋の自分としてはブランドという企業の思想・価値観を一番上流の概念として捉えているが、ハーバード大学のカリキュラムではマーケティングの中にブランディングがあるとされている。もちろん、それぞれロジックは通っているので、どちらが正解でも不正解でもない。

物騒な言葉だが有名な言葉に「殺るか殺られるか」があるが、己の哲学を持った言葉は市場で勝利するためにも必要で、はたまた市場に自社が振り回されないためにも必要だ。ここには「採用担当だから」「広報担当だから」という言い訳は関係なく、一ビジネスマンとして”自社らしく勝つ”ことは意識していきたい。

「自社にとっての広報・ PR・ブランディングが何なのか?」を突き詰めて考えいく中で自社なりの解釈を見つけ、それをうまく活用していく中で、自社だからこその施策と結果が生まれていくと信じて止まない。