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「魅力的な自社像を描く」。採用活動を成功に導く、ブランディングの第一歩はどう踏み出すべきか

2019年10月29日、企業広報戦略研究所(電通PR内)とForbes JAPAN CAREERが「HRの現場から考える企業ブランディング」と題したイベントを開催。

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集まったのは新卒、中途を問わず採用に関心のある企業の経営企画・広報・人事担当ら約30人。ワークショップ形式で自社の採用活動やブランディングのあり方を見つめ直すと同時に、企業や所属部署をまたいだ参加者同士での意見交換も行った。

ファシリテーターとして登場したのは電通PRで企業広報戦略研究所の主任研究員を務める萬石隼斗とForbes JAPAN CAREER編集長の後藤亮輔。

萬石はコーポレートブランディングの専門家として、採用にまつわる経営課題の相談を受けることが多く、その事例を交えながら企業広報戦略研究所が独自開発した採用ブランディングのフレームワークを紹介しながらワークを進めた。一方の後藤は採用人事のキャリアを持つ異色の編集者。その経験から、“自社という人格”をどう伝えていくべきかを語った。

「採用ブランディング」と「採用PR・広報」の関係性

冒頭、萬石は「採用ブランディング」の定義から話を始めた。

採用ブランディング の定義とは
企業広報戦略研究所(電通PR内)主任研究員・萬石隼斗

「採用ブランディングは、求職者だけに向き合う意識ではなく、『自社が社会からどのように見られたいか』という目線で考えることが重要。そのようにして考え出したブランドメッセージをどう伝えていくのか、といった戦略と手法が採用PR・広報の役割になる」(萬石)

採用ブランディングの成功事例として、求職者向けの施策がマーケティングの面でもプラスに働いた、大手食品企業の取り組みが紹介された。

同社の新卒採用では、10年以上前から書類選考に落選した全員に宛ててお礼状と飲料などの自社商品を送っていた。最近になって、ソーシャルメディアでこのことを投稿した学生が現れたため、一般にも広く知れ渡り話題化。

ご存知のようにソーシャルメディアは誰の目にも触れる可能性があり、1つの投稿、1人の発信がインターネットを中心に企業の評判を形成することもあるため、萬石は「採用候補者はインフルエンサーになり得る」と話す。昨今は選考の落選者に対して一切連絡しないといった「サイレント企業」が、評判を落とす事案もある。ところが同社の対応はその逆で、選考を受けた学生だけでなく一般消費者などにも良い影響を与えた。

では、こうした成功事例をつぶさに拾い集め、各企業が同じことを実行すればよいのだろうか。後藤は「それだけでは表面的」だと話す。「自社の魅力」と「社会トレンド」を見極め、採用PR・広報や採用活動の一つ一つの施策に反映させていくことがポイントと語った。

「自社の個性を表現するブランドメッセージ」を生み出す、4つのステップ

採用ブランディングと、それに紐づく採用PR・広報や採用活動に関する概要が語られたあと、参加者は個人ワークを通してその理解を深めた。

ブランドのメッセージを考える

ここで紹介されたのは、ブランドメッセージを決定する4つのステップだ。萬石はそのステップを次のように定義した。

1.自社の魅力を棚卸し
2.ターゲットの明確化、特性研究
3.社会トレンドの洗い出し
4.ブランディングにつながるメッセージの決定

まずは「自社の魅力を棚卸し」がブランドメッセージ策定の第一歩となる。その手がかりとして、萬石は電通PRが開発したフレームワークを用いて企業の魅力を「(1) 人(企業理念や経営者、社員)、(2) 商品(商品の品質・機能性やそれを支える技術力・ノウハウ、商品への評価)、(3) 事業(経営資源や事業内容、事業の将来性)、(4) 就業(職場風土や勤務条件、キャリアパス)」の4つに分ける方法を紹介した。

後藤はここでのポイントをこう説いた。

「採用だからといって、給与や福利厚生といった雇用条件だけにとらわれず、それ以外の魅力にも視野を広げることが重要。自社ならではの魅力は、ビジョンやそこで働く人にこそ宿り、それに紐付くストーリーが共感を生み、人を惹きつける」

参加者それぞれが自社の魅力を洗い出したあとは、「ターゲットの明確化、特性研究」

いわゆる“ペルソナ”であるが、ここでは年齢・居住地といったデモグラフィック(人口動態的)属性のような仮説立ては必要ない。あくまで採用の観点で、求職者の傾向を理解することが肝になる。

実際にワークでは、求職者のペルソナの一例として挙げられた「(1) 現場志向/社風重視型、(2) ベンチャー志向型、(3) 大企業志向型、(4) 能力/スキル重視型」をもとに自社の採用ターゲットを分類した。萬石によれば、「まずは、採用に必要な観点でターゲットを設定することで、彼らが就職・転職先に求める要素や興味関心を分析できる」

3つ目のステップは「社会トレンドの洗い出し」だ。

「そもそも社会トレンドをなぜ意識する必要があるのか。それは、社会の様相が求職者の心理にも影響を与えているから。実際に、私たちが実施した就活生への調査(※1)や大手就職情報サイトなどによる求職者の意識調査では、就職・転職先に求める要素が毎年変化している」

とはいえ、単に時事性のあるネタを取り入れることとは違う。特に採用活動は、広告キャンペーンなどに比較して長期間におよぶため、1年スパンなど、中長期的な目線でのトレンドを意識すると良い。

昨今の具体例としては、「働き方改革」への関心や意識の高まりが挙げられる。indeed調べのデータでは、同サービス内で、キーワードに「時短」を含んだ求人案件の検索回数がこの6年間で10倍に増加した(※2)。

だからといって、どの企業も横並びに働き方改革にまつわる取り組みばかりアピールしても、自社らしさが表現できないのも事実。そこで、第2のステップで抽出したペルソナを活用することが鍵になる。「ペルソナの興味関心」というフィルターを通して、社会トレンドを観察することで、自社が着目すべき切り口を見つけることができる。

社会トレンドを観察することで、自社らしさを見つけることができる
Forbes JAPAN CAREER 編集長・後藤亮輔

そして最後の「ブランディングにつながるメッセージの決定」は、萬石・後藤の両氏が「もっとも難しい」と口をそろえるステップ。

ここまでの3ステップをふまえて、どのような表現であれば採用ターゲット、ひいては社会にメッセージが届くかを考える。社会トレンドに合ったメッセージは話題を集めて応募者の量が増えるだけでなく、“自社らしさ”が織り交ぜられることで、ビジョンや採用ニーズにマッチした“応募者の質”を高めることにもつながる。結果、企業のブランドイメージは向上するといった副次的な効果も得られるだろう。

ところで、ブランディング活動は企業と社会の間で繰り広げられる継続的な対話だ。理想的な自社像を描くのはゴールではなく、むしろ始まりだといえる。理想を自ら体現し続けることで、顧客や求職者といった“社会”が、自社に対して抱く像に変化を与えていくこと。それがブランディングの本質だ。約2時間におよぶワークショップを通し、参加者はその第一歩を踏み出した。

※1 企業広報戦略研究所「『採用ブランディング調査2020』結果
※2 Indeed Japan株式会社プレスリリース「Indeed Japan『柔軟な働き方』に関する求職者の意識調査を実施