| by 山口 達也 | No comments

自社のカルチャーを見つめれば、「採用の武器」は必ず作れる

vol.1では「採用の答えは、採用にはない」「“経営視点”を人事がいかに持てるか?」という、企業人事歴の長い杉浦氏だからこその独自の視点で、採用で勝つための秘訣について語ってもらった。
(連載vol.1:人事担当者に問う、「採用に、経営目線を持てているか」

vol.2の本稿では、引き続き話の論点となっていた「転職前提のキャリア形成に対し、企業はどのようにカルチャー醸成をしていけば良いのか?」について探りつつ、そのカルチャーを採用の武器作りへ応用するための思考法を探っていく。

この対談の連載一覧はこちら>>

ヤマグチ:たしかに、複業やフリーランスといった働き方を新卒時点で考える学生が増えてきているのは、彼らと直接話をしていると年々強く感じますね。

こうしたトレンドが進む中で、個人にとって「会社にわざわざ所属する理由」が必要になっていくと思うのですが、その理由作りのために様々な仕組みや環境構築の努力をしないといけないとも同時に感じています。

ですが、カルチャー醸成には時間がかかりますよね?そのような中でも採用はしないといけないとなった場合、どう採用を考えていくべきなのでしょうか?

杉浦:ケースバイケースですが、最終的には「経営者の意志と覚悟次第」だと思います。

「求めている人物像」と「今の環境で実際に活躍している人物像」の違いがある場合を例にとって考えてみましょう。

例えば、過去のクライアントさんでこのようなケースがありました。経営者としては「能動的な人材」が採用したいが、実際の社内現状を見てみるとそのような人材は「我が強い」と煙たがられて評価されていない。

ヤマグチ:多くの企業で発生しそうなケースですね。この場合、どのようにすれば良いのでしょうか?

杉浦:こうしたケースだと、経営陣が変わるしかないんですよね。

会社のカルチャー醸造には、経営陣が変わるしかない
モザイクワーク 代表取締役社長 杉浦二郎

このケースでは「自分自身が覚悟を持って組織を変化させていかないと、能動的な人材が活躍する組織になりません。あなたたちが変わりますか?それとも現状維持をしますか?」と、社長・役員全員に投げかけました。

その結果、彼らは変化することを選んだので、私の方でも組織の風土改善も進めつつ、徐々に能動的な人材を採用して、新たな組織づくりを目指していくようになりました。

このように「欲しい人材が採れない」という課題の原因は、実は経営者側にあるということも往々にしてあります。

ヤマグチ:たしかに「採用の答えは、採用の中にはない」ですね。

自分の場合は、“経営の方向性”や“その根底にある経営者の意志・哲学”を「コーポレートブランド」と言い換えているので、今のお話は非常に納得でした。

やはり、経営者の意志を理解した上で、戦略・戦術にその思想を一気通貫させて初めて「採用ブランディング」になると思っていて。

上流をいかに理解して「自社らしさを残しつつ、他社と違うポジションをどう取るか?」は、採用で勝つための大きな要素にこれからもなっていくのかなと思います。

「自社だからこその武器」がないのなら、ゼロから創ればいい

杉浦:あと、そもそも自社の魅力がないなら「努力してゼロから武器を作る」ことも大切だなと思います。

三幸製菓に勤務していた時の話ですが、大手お菓子メーカーと比べると三幸製菓は企業力自体にほとんど魅力がありませんでした。ここでいう“企業力”は、いわゆる「知名度や年収・福利厚生」などですね。

しかし、だからといって諦めるのではなく「自社は採用弱者なんだ」と認めることで状況はガラリと変わりました。

「弱者だからこそできることがあるはず」とポジティブな思考に転換することで、大手企業が真似できない自社だからこその採用をゼロベースで作ることに意識を向けられた。

その先で出来上がったのが、あの『日本一短いES』でした。

日本一短いエントリーシート

ヤマグチ:『日本一短いES』は多くのメディアでも取り上げられ、且つ今までの採用の常識からも良い意味で外れている選考手法ですよね。

やはり、この選考が生み出された背景には三幸製菓としての思いやアイデンティティもあったのでしょうか?

杉浦:今思うとそうですね。

三幸製菓には「常識を疑え」「いかに効率化するか?」といったカルチャーがあり、私自身もその影響を強く受けていたと思います。

あの選考手法の企画自体、もともと僕自身が持っていた“既存のESに対するアンチテーゼ”が始まりだったんですよ。

ヤマグチ:そうだったのですね。具体的には、どういった点へのアンチテーゼだったのでしょうか?

杉浦:「学生が2日も3日もかけてせっかく書いてくれたESなのに、学歴しか読まれない状況」が、昔から個人的にあまり好きじゃなかったんですよね。

「学生が忙しい中でどれだけ必死に書いてくれているかを人事はどこまで考えているのだろうか?」とモヤモヤしていたので、そこを起点にあのESを企画しました。

もちろん、既存のESもあれはあれで一つの形なので、そこを単に否定するのではなく「こういう形もありなんじゃないか?」といったように、価値観の選択肢を広めることを意識していましたね。

だからこそ、「ES」というフォーマットは踏襲しつつ、その中で新たなものを価値観を創っていくイメージで企画しました。

同時に多様な価値観を共存させるように、コミュニケーションをデザインする

ヤマグチ:単純に対立させるのではなく、同時に多様な価値観を共存させるようにコミュニケーションをデザインすることは、PRの観点においても非常に重要ですね。

その中で、どのように三幸製菓カルチャーを踏まえて実際の企画へと落とし込んでいったのでしょうか?

杉浦:先ほどお話しした自分の思いの上に会社のカルチャーが重なった時、「そもそも採用とは何か?」から問いを始めました。

「常識を疑え」の体現ですね。

そして、その結果として辿り着いたのが「採用とは“情報のやりとりである”」という事実だったと再定義し直したんです。

そこから「情報の効率化を考えるならば、最初にそもそも志望動機や自己PRを聞く必要はあるのか?」と、さらに常識を疑いながら思考を広げていき、あのESに至りました。

ヤマグチ:ブランドを「意志」と定義するなら、ある意味で杉浦さんのブランドと三幸製菓のブランドの“融点”が『日本一短いES』だったということですね。

やはり、この企業カルチャーは創業社長から現在の社長まで、脈々と受け継がれてきたものだったのでしょうか?

創業者のカリスマ性がカギを握る

杉浦:そうですね。

創業者のカリスマ性が強かったので、そのアイデンティティは色濃く残っていると思います。

おせんべい業界というニッチ市場に最後発で参入したにもかかわらず、たった一代で市場シェアを20%近く獲得して500億円規模の企業にまで成長させた初代社長は、やっぱり常識外れなんですよね(笑)

業界の中でも少し変わった存在で、市場トレンド的に原材料のお米の値段が上がる中、業界的には商品の値段を当然上げようとするのですが、三幸製菓はそのタイミングで値下げするという変わった会社でした。

でも、それは他社よりも生産効率と利益率を圧倒的に考えていたからこそ出来た施策だったんです。

そうした「常識外れな思い」とそれに紐づく行動は、当然ながら他社は真似できません。だからこそ、そこから独自のカルチャーが企業に根づいていったのだと考えます。

ヤマグチ:一つ疑問なのですが、なぜ杉浦さんはそうした「社長の常識外の思いや経営視点」を理解することが出来たのでしょうか?

おそらく採用戦術を立てることは出来ても、経営者と思考をリンクさせる方法が分からず、頭を抱える採用担当者の方も多いと思うので、ぜひお聞きしたいです。

杉浦:そうですね……。担当者の立場であったにせよ、私に経営視点を持とうとする努力の姿勢があったからだと思います。

採用をする上で、経営視点を持とうとする努力の姿勢があった

例えば、社長が全社集会でトップメッセージとして話す言葉。社長もヒトですから、何かに影響されてメッセージを紡いでいるはずなんですよね。

なので、社長が読んでいる本を私も同じように読んだりして、「今、経営者が何を考えているのか?」を理解できるよう努力しました。

また、「これを使えば絶対に良くなる!」と思うサービス・ツールがあれば、たとえ稟議が通らなくても自腹を切って契約するくらいの覚悟を持って臨んでもいました。

質問に戻ると、私が経営視点を得られたのは「自腹を切ってでも、絶対に結果を出す」という覚悟があったからかなと思います。

ヤマグチ:杉浦さん、行動がとんでもないですね(笑)。でも真面目な話、なぜそこまでの覚悟を持つことが出来たのでしょうか?

杉浦:それは──。


──これからの時代、人事が経営目線を持って動いていかないと採用には勝つことが難しくなることが強く理解できた。

vol.3以降では、さらにこれから企業人事・採用担当者に求められる「覚悟の持ち方」と「デザイン思考の重要性」について、踏み込んで聞いていく。

──続編のvol.3は12月13日(金)公開です。
(続編・vol.3:人事が覚悟を持つには、“誰のために働いているのか?”を自覚することが必要