
採用ブランディングの意義、メリットを再考する。「応募の質」を高めるために
労働人口の不足により、企業が優秀な人材の確保に頭を悩ませる昨今。
より多くの求職者に「この会社で働きたい」と思ってもらうために、多くの企業が様々な策を講じている。
そんな採用活動におけるトレンドワードとなっているのが、「採用ブランディング」だ。
そもそもブランディングとはマーケティングの戦略の1つで、消費者が自社ブランドに対して抱くイメージ・印象にはたらきかける活動のこと。それを求職者と企業との関係に置き換えたのが採用ブランディングだ。
中・長期的な取り組みが求められるが、成功すればより低コストでより自社に適した人材の確保に貢献できるはずだ。
本稿では、採用ブランディングを行う目的やその効果を紹介した上で、実際に取り組む際のステップについて解説していく。

採用ブランディングとは、企業が自社の商品・サービスや取り組み、ビジョンや哲学を発信することで、求職者から「共感」「憧れ」「信頼」といった前向きなイメージとともに自社を想起してもらうための活動だ。
こうしたイメージを醸成するのは、一時的な施策だけでは難しい。求人広告や説明会での事業説明・社風紹介だけではなく、採用活動の中での振る舞い、さらには自社の事業活動そのものなど、求職者とのありとあらゆる接点において“その企業らしさ”を伝えることが大切だ。
その意味で、採用ブランディングは企業全体のブランディング活動とイコールだと言っても過言ではない。
採用ブランディングの目的とメリット
この採用ブランディングの概念を採用する企業が増えているのはなぜだろうか。その背景を知るために、その目的やメリットについて考えてみたい。
その目的は、認知向上やエントリー数増加にあらず
採用ブランディングを取り入れることの目的は、自社のニーズにあった人材を効率よく確保することである。「自社について知ってもらう」だけでは目的達成とはいえないし、さらにいえば「エントリーが殺到すること」もじつは目的ではない。
例えば、大企業などで顕著な大量採用を考えてみてほしい。ミスマッチによる早期退職や内定辞退、選考辞退などの“歩留まり”を想定して、多めに採用や内定を出すことや、エントリー数の多さで評価される状況は珍しくないだろう。
だが、こうした“目先のKPI”を主眼に置いた採用活動は、果たして本当に効果的な採用施策だといえるだろうか。
せっかく時間と労力をかけて絞り込んだ候補者が内定を辞退したり、入社後すぐに「イメージと違った」と退職したりなど、結果的に自社から優秀な人材がいなくなってしまえば、それまでのコストがムダになってしまう。
そこで、「自社らしさ」をさまざまな手段で発信し、選考の前段階から求職者の期待やニーズとのすり合わせを丁寧に行なうのが、採用ブランディングの考え方だ。
このブランディングという言葉を表面的にとらえて、「ブランディング広告」の名のもとに、どれだけエモーショナルで共感できる採用コピーを世に出しても、候補者が入社後にイメージ通りのバリューを得られなければ、それは表面的な取り組みに終わってしまう。
だからこそ採用ブランディングにおいては、求職者自身が「あなたの会社に入る意義や魅力」や「入社後の自分」を具体的に想起できるような「等身大で、かつ求職者に響く」情報発信が非常に重要だ。
最大のメリットは、「エントリーの質」が変わること
では採用ブランディングに成功すると、どのようなメリットがあるのか。
求職者には「有名企業だから」「給与や福利厚生が良いから」といった判断ポイントが確かにあるが、こうした動機ではいわば、“本命”ではない、とりあえずのエントリーになりがちだ。だが、もし知名度や待遇といった面だけでなく、自社らしさの浸透に成功すれば、求職者はあなたの会社で働く姿を想像し、転職先として真剣に検討しはじめる。
自社の文化が反映された採用メッセージが正しく受け手に届けば、学歴やTOEICの点数といった、“誰かが用意した採用基準”ではなく、「価値観」「ビジョン」「その事業をやる意義」といった “自社ならではの選考基準”で求職者を選ぶことができるのだ。
これはいわば、エントリー数至上主義な感もある現在の採用トレンドと対比して、「エントリーの質」が高まることだと考えている。
その「エントリーの質」が高まった具体的な例が、Forbes CAREERでトップメッセージを掲載した、パシフィックリーグマーケティング社だ。
同社はプロ野球という、業界の魅力によって求人に対する応募数が非常に多い一方で、選考過程におけるミスマッチが課題だった。しかし、採用候補者がエントリー前にトップメッセージ記事を読むようになったことで、事業の方向性などの具体的なイメージを浸透させることに成功した。その結果として、「採用決定者/エントリー数」の割合を大幅に改善させた。
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結果として、採用コストダウンにも
エントリーの質が高まることは、結果的に採用コストを下げることにも貢献する。
もし大量採用から方針転換を図った場合、エントリー数が減ってしまうかもしれない。しかしメッセージを入念に練った情報発信をすれば、上に挙げたようなとりあえずの応募を事前に減らすことに貢献する。そうなることで、応募書類チェック時間の短縮など、採用担当の作業効率が上がり、1人の採用あたりにかかるコストも圧縮できる。
さらに、マッチング段階から “自社らしさ”が明確に伝わり、求職者の期待やニーズとのすり合わせができていれば、「入社前後でイメージが違った」といった事態を未然に防ぐことにも繋がる。これによって社員の定着率が上がり、採用・育成などの費用対効果を高めることができる。

採用ブランディング実践に向けて取り組むべきこと
ここからは、今すぐ実践できる採用ブランディングのステップについて解説していく。
ただ闇雲に情報を発信していくのではなく、自社はどのような人材が欲しくて、どのようなメッセージやコンセプトに共感し、どのようにして情報収集をしているのかを把握しよう。
必要とする人材を明確化する
まずは自社の置かれた状況の理解(強みや課題)、必要な人材像を明確にすることが重要である。具体例としては、次のような項目を吟味する。
- スキル:どのような職種を求めていて、どんな経験や実績があるとよいか
- マインドやビジョン:どのような働き方・生き方をしたいか
- 社風:自社の社風を言語化し、それに合うかどうか
なお、自社ブランディングに引っ張られるあまり「応募職種」と「業務内容」が乖離しないようにする注意は必要だ。「クリエイティブアナリスト」や「マーケティング」をうたっていても実態は営業だった、といったギャップは、後々の離職率増加や、退職者を通した悪評にも繋がってしまうため避けたいところだ。
自社の採用ブランディングのためのコンセプトを決める
並行して、求める人材に響く自社の特徴について考える。
自社がもっているアセットのうち、どのような側面が応募者に良い印象を与え、共感を得るのか。仮説をもとに「自社にとって望ましいブランドイメージ」をつくり上げていく。
その際のポイントは、他社との違いも踏まえて自社を見つめること。
例として、オリエンタルランドを例に考えてみたい。ディズニーランドと聞いて、何を思い浮かべるだろうか。
笑顔とホスピタリティが印象的なキャストもその1つかもしれない。が、それだけではオリエンタルランド独自のブランドイメージとは言い切れない。なぜなら、笑顔とホスピタリティが印象的なスタッフはユニクロにもいるし、スターバックスにもいるからだ。
そうしたなかで、オリエンタルランドが独自性を築ける面はなにか。たとえば、「夢の国」はその一つだ。ディズニーリゾートという”夢の国”で来場者を楽しませ、感動や思い出を提供する。そうした価値観がブランドを体現するイメージの一端になる。
このように事業の仕組み、企業の存在意義や哲学を見つめ直すことが、自社の立ち位置や「この会社だからこそできること」=自社ブランドのコンセプトの発見につながる。
ちなみに、人材欲しさに背伸びしたメッセージを発信する必要はないし、それが本来の自社の姿と異なっていれば、それこそ採用後のミスマッチが生まれてしまう温床にもなるので注意が必要だ。
ブランドイメージを発信する
発信すべきコンセプトが定まったら、いよいよ実際にメッセージを発信していく。
メッセージについては、コピーライティングをはじめとした専門的なスキルを、時には外部のリソースも動員しながら開発していくことが一般的だろう。ここではその各論には触れず、採用担当者が知っておくべき「発信チャネル」と「発信形態」の考え方について紹介したい。
下の図のように、必要な人材はどのようにして自社の情報収集するか、そのタッチポイントを明確にすることが最初のステップだ。

ここで大切なのは、求職者との接点をどう持つか、である。
求職者に自社を認知してもらうには、採用説明会のほかにもテレビCM、店舗や商品といった多様なタッチポイントが考えられる。そのタッチポイントは意外なところにも存在する。
例えば、ある食品メーカーでは10年以上前から、書類選考に落選した求職者に宛てて、エントリーへのお礼状や自社商品を送っていたという。この取り組みがSNSに投稿されたことよって、一般にも広く知れ渡り話題となった。
SNSはテレビや雑誌と異なり、無名の一個人が、自らの発信によってインフルエンサーとなり得る情報発信媒体だ。消費者の客観的な目線で、リアルかつ率直な情報を拡散する点で自社からの発信とは違った影響力を持つ。採用ブランディングは、こうしたインパクトも加味することで包括的でダイナミックなマーケティング戦略となるのである。
最後に:採用ブランディングを通じて、採用活動にブレイクスルーを
採用ブランディングが成功した暁には、大きなメリットが得られる。その分、一朝一夕で効果を出すことは難しいのもまた事実だ。
これまで行ってきた「できるだけ多くの求職者に応募してほしい」という応募数ありきの考えから脱却し、自社のニーズにあった求職者と的確にマッチングし「応募の質」を重視した考えに切り替えることは、採用活動における1つのブレイクスルーになるだろう。
その姿から逆算して、誰に対して、どういった情報を、どう発信するのか決めることがポイントになる。“自社らしさ”が際立つ方法で、求職者とあらゆる接点でかかわり続けること、それが採用ブランディングの本質だ。
「どんな社員と一緒に働くことができるか」
「どんな形で社会の発展に貢献しているのか」
まずは、こうした自社の価値を再定義し、それを表明することがブランディングの第一歩だ。

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