
採用パンフレットを「求職者の疑問や先入観を払拭するツール」にするための考え方
働き手の不足が社会課題となっている昨今。より優秀な人材を確保しようとする企業間の採用競争は激化の一途をたどっている。
各社が採用活動に工夫を凝らす中で、自社の魅力をアピールするために効果的なツールのひとつが採用パンフレットだ。
スマホや動画が主流の今、なぜわざわざ紙媒体が必要なのか?WEB上の採用ページとダブルコストになるのではないか?
このように疑問を感じる声は少なくないかもしれない。
ところが採用パンフレットは、採用ページや説明会とは別の次元で有効な、採用マーケティング施策の一部なのである。これらの施策は上手く組み合わせることで、採用競争に勝つための効果を発揮する。
そこで本記事では、採用パンプレットの基本的な内容や使い方に加えて、デジタル化が進んだ現代において、「なぜ紙の採用パンフレットが必要なのか」、そして「どんな内容を盛り込むと効果的なのか」を考えていきたい。
求職者に響く採用パンフレットの条件
採用パンフレットとは、求職者に向けて、その企業で働く魅力を知ってもらうための資料のこと。企業にとっては、「こんな人に入社してほしい」と求める人材の姿を伝える手段でもある。
採用パンフレットに含めるべき情報

Webサイトとの違いなどは後述するが、まずは採用パンフレットに盛り込むべき情報について見ていこう。
求職者が応募する前に知っておきたい情報は、大きく分けると「どんな会社なのか」「どんな人材を求めているのか」「入社したらどのように働けるか」の3つに分けられる。
パンフレットの内容は、こうした疑問に対して、わかりやすい答えが見つかるコンテンツであることが望ましい。例えば、以下の項目が考えられる。
ビジョン、ミッション
事業を通じてどんな社会をつくりたいのか、そのために社会に対して何を提供するのか、といったことがビジョンやミッションだ。企業理念と呼ばれている場合もある。 特に昨今は、これらの存在は非常に重要だ。
SDGsに代表されるように、社会や環境を持続可能なものにするために、企業は目先の利益だけでなく、より高い視座でビジネスを通じた社会貢献をすることが求められている。それができていない企業は批判にさらされたり、従業員満足度の低下や離職につながったりする。
ビジョン、ミッションの宣言(と自社内での浸透)はそうした事態を避けることに加えて、「この会社ではたらく意義」を求職者に伝える際にも有効にはたらく。
企業情報(沿革、拠点、社員数など)
求職者に自社のことを理解してもらうためには、思想だけでなくその実態を伝えることも重要だ。それがこの企業情報にあたる。
たとえば沿革や拠点、社員数など、どのように企業活動を行っているかを伝える項目があると良いだろう。このほかにも、売上高の推移や主要顧客なども自社理解を促す情報になる。
事業・サービス紹介
企業情報と同じく、展開する事業・サービスの紹介も自社の実態を伝えるために欠かせない項目だ。
特に、ビジョンやミッションと事業を1つの文脈として、関連性をもたせながら語ることができると、求職者にとって納得感が増し、良い印象を与えられるだろう。
複数の事業を展開している場合は、各事業の関連性や、主要な事業が何かなど、自社の姿をできるだけ忠実に伝えることが求職者からの理解につながる。
募集要項
「どんな人材を求めているのか」という問いへの答えとして、求職者に期待している人物像やスキルに関する情報と、条件面に関する情報も必要だ。
条件面については、採用する職種や職階ごとに給与や法定休日・勤務時間や残業代の有無、勤務地など、求人媒体などで出している項目に準ずる形で良いだろう。あわせて、採用で重要視している方針や、募集の背景を語れると理想的だ。
こうした情報を網羅していれば、ビジョンや事業内容で興味が高まったタイミングで応募への行動喚起ができる。
社員インタビュー、福利厚生
「入社したらどのように働けるか」という疑問に答えるコンテンツとして、職種別の「先輩社員の声」や働き方に関する情報も忘れずに盛り込んでおきたい。
2019年4月から施行され始めている働き方改革の影響もあり、企業選びのポイントとして「ワークライフバランス」を重要視する声も高まっている。給与や成長機会と同じように、プライベートな時間を確保できるかどうかも、入社前に求職者が確認したい事項だ。
特に、福利厚生などで独自の制度を設けている企業は良いアピール材料になるので、ぜひパンフレットにも載せると良いだろう。
採用パンフレットの戦略的役割
ここからは、採用パンフレットをどのように活用すると効果的かを考えていきたい。 人が行動を起こすプロセスをモデル化すると、大まかに「認知→検討→行動」の3段階があるといわれている。
したがって、求職者に「この会社にエントリーしたい」という「行動」をとってもらうためには、まずは自社を「認知」してもらい、就職先として「検討」してもらわなければならない。

採用パンフレットは、このプロセスのなかで、認知から検討の段階で活躍するツールとして期待できる。
【認知】自社の存在だけでなく、正しい姿を知ってもらう
採用パンフレットが第一に力を発揮するのは、自社のことを知らない人材へのアプローチだ。パンフレットを求職者に渡せる場面は、求人媒体が主催する合同説明会などのイベントだ。
もし仮に自社ブースでの説明を聞いてもらえずとも、パンフレットを一度手に取ってもらえば、自社を認知してもらうきっかけは掴めたことになる。その上で、手にとったパンフレットを開いてもらうためには、文字情報だけでなく、写真や印刷の工夫など、自社らしさを表現するあしらいも非常に重要だ。
また、先に紹介したような「求職者の疑問に答えられる情報」が適切に配置されていることがポイントになる。ここでの考え方としては、求職者は働いたことのない会社に対して「何も知らない」もしくは「何らかネガティブな先入観を持っている」という前提に立つとよいだろう。
この前提でパンフレットに載せる内容を検討すれば、パンフレットが「自社のことを知らない人」「業界や自社に対して抱くイメージのせいで、転職を検討していない人」にむけて自社の正しい姿を伝える役割を果たしてくれる。
特に後者については、当事者だけでなく、パンフレットの制作会社など第三者の目で自社のことを冷静に見つめてくれる存在が鍵になる。「外から見て自社がどのように映っているか」を知り、その上で「どのような情報があれば、イメージを覆せるか」を協力して考えることで、より効果的なメッセージを発信することができる。
【検討】事業やビジョンに親しみを持ってもらう
検討の段階では、求職者がより現実的に応募すべきか、そうでないかを判断する。
このときの判断軸は求職者により様々だが、基本的には「どんな会社なのか」「どんな人材を求めているのか」「入社したらどのように働けるか」の3つに紐づくと考えてよいだろう。
そのため採用パンフレットには、ある程度具体的な情報があると良いだろう。例えば重要度の高いと思われる給与も「弊社基準に順ずる」と書かれているよりも「35万円〜60万円/月、賞与年2回」の方が、求職者にとって検討しやすい。
ほかにも、ビジョンがサービス運営や社内文化とリンクしていることを示すことや、労働環境の良さを伝えることも有効だ。
【行動】複数社にエントリーした求職者に、自社ならではの魅力を伝える
検討のフェーズで自社に魅力を感じてもらえた場合は、エントリーへとつながる。ただし、求職者は複数社同時にエントリーする場合も珍しくないので、「自社で働く魅力」を伝えることが必要だ。
もちろん、実際に求職者と会う中で入社意欲を高めることが重要だが、採用パンフレットでも、待遇や労働環境などだけでは語れない魅力を伝えるページがあると、求職者の心に良い“引っかかり”を残すことができるかもしれない。
自社のブランディングを考えるヒントとして、下の記事も参考にしてほしい。
>>> 採用ブランディングの意義、メリットを再考する。「応募の質」を高めるために
採用パンフレットと採用ページの違い
最後に、この時代にわざわざ紙のパンフレットを使う意味について考えたい。求職者への情報提供が目的なのであれば、企業の採用ページ(Web)でも事足りると思う方も少なくないだろう。
採用ページと採用パンフレットの特徴を比較すると、それぞれの持つ強みが相互補完的になっていることが分かる。どちらのほうが良い、というよりも双方をうまく組み合わせることが重要だ。

情報収集の方法
一方で採用パンフレットは、求職者が意識的に自社の情報を探していなくても、相手の目の前に差し出すことができる。自社の認知がない場合や、現時点で求職者の候補に入っていない場合は、合同説明会などの場でパンフレットを配布するほうが有効だ。
インターネット上の採用ページは、検索や広告クリックなど、求職者の自発的な行動がないと訪れてもらえない。
伝えられる情報
採用ページには、掲載できるコンテンツ量に上限がない。会社の事業内容から最新ニュースまで、あらゆる情報にたどり着くことができる。対して採用パンフレットは、ページ数が決まっているため、掲載できるコンテンツに限りがある。
ただしWebの場合、ページ訪問者の行動はじっくり読む・見るというよりも、ざっと全体像を眺めるという表現のほうが近いという研究もある。その意味で、スマホやパソコンのスクリーンよりも、ページ数に限りのあるパンフレットのほうが的確に情報を伝えられるケースも十分考えられる。
ある程度集中した状態で自社の情報に触れてもらうために、紙のパンフレットは有効な手段の一つだ。
更新性
この点で比較すると、Webのほうがパンフレットよりも優れている。一方で、細かい更新のたびに求職者がページを訪れることはほとんど期待できないので、その点は予めふまえたうえでページを設計すると良いだろう。
また、パンフレットについても配布しきる前に情報の差し替えが必要になると、無駄が発生してしまう。そのため、制作時にはできる限り差し替えが発生しないような構成にすることも重要だ。
話題性
採用ページは、そのURLを共有することで拡散される。遠く離れた他人にも同じ情報を送ることができるため、シェアしやすい設計にしておくことで話題化しやすい側面がある。同じく就職先を検討する仲間同士であればWebのほうが情報を共有しやすいだろう。
一方で、求職者を落とす意味では、じつは採用パンフレットも効果的な役割を果たす。例えば求職者がエントリーを検討している会社のことを家族に話す場合。Webサイトよりも手に取れるパンフレットのほうが良いケースもある。
リマインド効果
合同説明会の場合、求職者は1日に多くの企業説明を聞くことになるため、彼らの記憶に自社がどれだけインパクトを残せるかは判断し難い。
Webページも同様に、ブラウザのタブを閉じると同時に情報も閉ざされる。「詳しくは採用ページを見てください」と就活生に伝えたところで、果たして本当に検索してそのページを訪れてくれる可能性はどれくらいあるだろうか。
一方で採用パンフレットは、手元にあるというだけで、リマインド効果を発揮する。家に帰ってバッグを開けた時や、書類の整理をする時など、文字通り“ふとした時に”意識に入り込むことができる。
まとめ
採用パンフレットは、求職者に対する認知を拡大し、求職者の疑問を払拭することでエントリーなどの行動へと導くための重要なツールだ。
採用ページとはメリットを補完し合える関係にあるため、どちらか一つではなく、どちらも活用することが望ましい。
また、効果的な採用パンフレットを作成するには、自社の伝えたいメッセージを盛り込みつつ、「求職者の目線に立つこと」が欠かせない。求職者が知りたいことに触れるのはもちろん、自社や業界に対して持たれているイメージをふまえ、それらを覆すためのメッセージを盛り込むことが、効果的なパンフレットを作成するための鍵だ。

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