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人事評価制度とは?目的と種類を理解し、最適なシステムを導入する方法

人事評価制度とは、従業員の能力や貢献度をあらかじめ決めて、ある基準によって評価し、賃金や昇進などの処遇に反映するシステムのことを指す。

適切な人事評価制度は従業員の成長を促すことができ、企業のミッションやビジョンの実現、業績アップにも繋がる。一方で従業員から理解を得られない制度設計になっている場合は、不満の温床となり、生産性ダウンや離職者が絶えない状況の原因にもなりかねない。

そこでこの記事では、人事評価制度の目的や仕組み、導入方法について解説しながら、「自分の会社にとってどんな制度が合っているか」を考えるためのヒントを提供したい。

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制度設計の目的、仕組みのおさらい

まずは人事評価制度が必要な理由(目的)と、制度を構成する代表的な要素について見ていこう。

人事評価の目的

人事評価は賃金や昇進を決めるだけだと思われがちだが、それ以外にも重要な目的がある。まずは、何のために人事評価を行うのか、主な目的を紹介する。

・業績の向上
・人材育成
・従業員の処遇決定

業績の向上

企業にとって最も重要な目的は、人事制度の設計・運用を業績向上につなげることだ。働き方改革によって実質的には労働時間の短縮が求められる中、業績アップには従業員の生産性を高めることが1つの課題になる。

そこで、従業員一人ひとりの能力に応じた目標を設定し、その目標を達成する過程で生産性の向上を促すことで、最終的に企業の売り上げ向上またはコスト削減につなげることができる。

従業員の人材育成

企業が継続的に成長していくためには、戦力となる人材を育成し続ける必要がある。従業員の評価項目や基準を設定することで、従業員は「頑張れば正当に評価してもらえる」と認識できる。また、評価項目をもとにしながら、上司から部下へのフィードバックを定期的かつ的確に行うことで、従業員の自発的な成長を促すこともできる。

従業員の職階や待遇の決定

従業員の給料を一律に決定したり、年功序列で昇進を決めたりするのではなく、従業員が「正当に評価されている」と思える制度が重要だ。従業員の能力や企業への貢献度を測る指標を設定し、その指標を元にした客観的かつ総合的な評価を行うことがポイントになる。

制度をつくる3つの要素

人事評価制度は大きく、「評価制度」「等級制度」「報酬制度」の3要素で構成される。これらを組み合わせることで従業員を評価し、職階や待遇などを決定する。

評価制度

評価制度とはその名の通り、従業員の業務内容や成果を評価するための制度。

評価項目や基準、対象期間を定めて実施する。どちらも企業によって特色があるので一概にはいえないが、たとえば評価項目は「定量評価」と「定性評価」を組み合わせることが多い。

定量評価というのは例えば個人の売上目標など、数字で測れる目標の到達度を見る。定性評価は勤務態度や周囲の仲間に与える影響など、数字では測れない要素を指標化する。定性評価は必ずしも上司だけでなく、部下や同僚といった、評価者の周囲にいる者からの広い評価を参考にすることも増えてきている。

評価の対象期間については、一つの目安になるのが1年だ。それをもとにして半期、四半期での中間到達度を評価することで、よりきめ細かいフィードバックができる。なお、年間における評価の回数(年2回・4回など)と、昇給・昇進の回数が一致していないケースも一般的だ。

等級制度

等級制度とは、従業員の能力や業績に基づいて等級を決定し、等級に応じた役割や権限、職務を示すための制度。

例えば、チームリーダー・部長・執行役員といった等級を分け、従業員を動かす権限やマネジメントする範囲を明確にすることが狙いだ。職階があることにより、意欲ある従業員にとっては次に目指すべき姿が明確になり、努力の方向づけやモチベーション向上にも役立つ。

また、従業員規模や事業部の数などに合わせて、職階を増減させるのも一般的だ。たとえば大企業であれば、いわゆる役職者でなくとも「グレード」と呼ばれるような実績に応じたランク分けがされることが多い。

報酬制度

報酬制度とは、従業員の等級や評価に基づいて給料や賞与を決定するための制度。従業員一人ひとりに対して、適正な報酬を決定することができる。

人事評価制度が必要な理由(目的)と、制度を構成する代表的な要素を紹介する
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人事評価の対象と方法

ここでは、実際に従業員を評価するときの評価対象項目とその方法について解説する。
評価対象項目や評価方法は複数あるため、これらを総合的に評定した結果を人事評価に反映することが重要だ。

人事評価制度の主な評価対象

主な評価対象は以下の3つ。

・業績評価
・能力評価
・情意評価

業績評価

業績評価とは、特定の期間においてどれだけの成果をあげたのか、目標に対してどれだけ達成できたのかについて評価すること。売上金額や契約数、目標達成率など具体的な数字を把握する必要がある。

一方で、成果を出すまでの過程を評価することをプロセス評価と呼ぶ。良い成果を出すためにどのような戦略を立て、行動し、工夫したのかを評価する。業績だけでなくそのプロセスを評価することで、良い成果が出たプロセスを他従業員に水平展開できるメリットがある。

能力評価

能力評価とは、従業員が保有している知識、スキルに対して評価すること。具体的には、より専門的な知識を保有している、コンプライアンスに対する知識を保有している、人とのコミュニケーションに長けている、リスクマネジメント能力があるなどの項目を評価対象する。

業績評価と違い数字での評価が難しいが、保有資格など能力を証明できるもので評価するのも一つの手段。

情意評価

情意評価とは、従業員の勤務態度や仕事に対する姿勢を評価すること。業績評価や能力評価と比べると、具体性に欠け主観が入りやすい評価項目なので、人為的評価ミスが起こりやすいく注意が必要だ。

しかし、こういった仕事に対する姿勢は必ず行動となって現れる。遅刻や早退、職場でのモラル、仕事に取り組むときの態度や行動を評価対象にすると良いだろう。

人事評価制度の主な評価方法

先ほどの対象項目を評価するための主な方法は、以下の4つ。

・目標管理制度(MBO)
・重要業績評価指標(OKR)
・コンピテンシー評価制度
・360度評価

目標管理制度(MBO)

目標管理制度(MBO = Management by Objectives)とは、個別またはチームごとに目標を設定し、それに対する達成率で評価を決める制度。具体的な数字で評価することから、「業績評価」を実施する方法として有効だ。

目標設定のポイントとしては、目標が具体的かつ達成する方法や期間が明確であること、目標レベルが従業員にとって適正であること、企業目標との関係性を考え当事者意識を持つことが挙げられる。

この方法は、企業目標との関係性を考えながら自身の目標を設定するため、「やらされている感」が少なくなり、企業への貢献度を実感できるメリットがある。その反面、目標を容易に達成できるよう低く設定したり、目標数字にばかり目がいき他業務をやらなくなったりするリスクがある点には注意したい。

重要業績評価指標(OKR)

重要業績評価指標(OKR = Objectives and Key Results)は、目標管理制度と同じく業績評価に有効な方法だが、以下の違いがある。

目標管理制度が、目標を100%達成することを成功とみなし、年に1度人評価を行うのに対して、重要業績評価指標は60~70%達成することを成功とみなし、1ヶ月~3ヶ月スパンで人事評価を行う点だ。

このことから、重要業績評価指標は、変化への素早い対応や、変化が激しい中での企業の生産性向上が求められる現代情勢に適した評価方法であると言える。

コンピテンシー評価制度

コンピテンシー評価とは、高い業績を上げる人の行動特性(コンピテンシー)を評価項目として設定し、これに基づいて従業員を評価する制度。これは業務遂行能力とも置き換えられるため、「能力評価」を実施する方法として有効である。

具体的には、高い業績を上げる人が保有している知識やスキル、能力、行動パターンなどを評価項目として設定する。

企業内で既に高い業績を上げている人の行動特性を基準に評価するため、従業員一人ひとりにどんな能力が不足しているか把握でき、それを改善することで従業員そして企業の業績を上げやすいというメリットがある。さらに、人材採用や育成のための指標としても活用ができる。

360度評価

360度評価とは、上下(上司や部下)左右(同僚)あらゆる角度から従業員を評価する制度。勤務態度や仕事に対する姿勢を評価する「情意評価」を実施する方法として有効である。

多方面から評価を行うことで客観性が高まるため、具体性に欠け主観が入りやすい項目を評価する場合に最適。

また、通常の人事評価では上司が行うことが多いが、同僚や部下の意見も取り入れることで、評価が公平になり本人の納得感が上がる。

人事評価制度の主な評価方法

人事評価導入のメリット・デメリット

適切な人事評価を行えば企業にとって大きなメリットとなるが、逆にデメリットもある。

メリット

・企業と従業員間での信頼関係が強まる
・従業員のモチベーション向上につながる
・人材開発のための指標が明確になる

明確な評価基準のもと、正当に評価されていると従業員が感じることで企業との信頼関係が強まり、「頑張れば評価される」と従業員のモチベーションが向上することで、最終的に企業の業績向上が期待できる。また、人事目線で見れば、人材採用や人材育成のための指標が明確になり、より効率的に企業の成長に貢献ができる。

デメリット

・運用に失敗すると従業員のモチベーション低下に繋がる
・不適切な処遇による訴訟のリスクがある

人事評価が不適切であったり、あいまいな評価をしたりしてしまうと、従業員の不信感や不満が高まりモチベーションの低下につながりかねない。こうなると、従業員の生産性の低下を招く恐れがある。また、最悪の場合、従業員が訴訟を起こすリスクもあるので明確な評価基準に基づいた人事評価を行う必要がある。

人事評価における注意点

人事評価を行う者として、以下の点に注意する必要がある。

人事評価エラー

人事評価エラーとは、評価者が心理的影響に左右されて誤った評価をしてしまうことを指す。このエラーにはいくつか種類があるが主に以下の6つが有名である。

人事評価エラーは、この6つが有名である

評価者の適性

そもそも評価者に適性があるのかを見抜くことも重要だ。適性が無ければ先ほどの評価エラーを招く可能性が高くなるため、評価者は「人事評価基準を正しく理解しているか」「公平かつ客観的に評価できるか」などを見極める必要がある。

フィードバック

評価のみで終わるのではなく、評価者から従業員へのフィードバックを行うことが重要である。フィードバックを行わなければ、従業員は自身の「何を評価されているのか」「何が足りていないのか」などが分からず、今後の明確な目標を立てることが難しくなる。忙しくなればなるほど疎かにされがちだが、フィードバックまでを人事評価と設定し積極的に取り組むようにしよう。

人事評価に対する従業員の本音

人事評価に対する従業員の声にも耳を傾ける必要がある。以下はリクルートマネジメントソリューションズが行った「人事評価制度に対する意識調査」の結果だが、実際は人事評価に不満がある従業員も多い。

不満の理由としては、評価基準が曖昧であることや公平性を感じないことが挙げられる。こうなると「頑張っても報われない」と従業員のモチベーションが下がり、生産性の低下や離職などを招く恐れがある。それを避けるためにも、人事評価に対する社内アンケートを定期的に行い、従業員の不満を解消できるよう改善に努めよう。

人事評価に対する従業員の本音
出典:https://achievement-hrs.co.jp/ritori/?p=3628

人事評価の最新トレンドと事例

ここまでは、従来からある一般的な評価方法を解説してきた。しかし、近年は各企業の事業特性に合わせた人事評価を行うなど多様化している。この章では多様化する人事評価の中で、より注目されている最新トレンドを事例とともにご紹介しよう。

人事評価のトレンド

リアルタイム

一般的な人事評価では、半年に1回もしくは年に1回といった長期スパンで行うことが多かったが、記憶を遡らないといけないため、正確な評価が出来ず時間がかかっていた。
そこで、「リアルタイム」でフィードバックなどを行うようにし、その情報を集計して人事評価をするというやり方が増えている。

360度評価

評価方法についての章でも解説したが、360度評価とは上下(上司や部下)左右(同僚)あらゆる角度から従業員を評価する制度のことで、仕事に取り組む姿勢などを評価するのに適した方法だ。

最近では、仕事への姿勢や成果を褒めたり認めたりするだけでなく、それと共に少額の報酬を送り合う「ピアボーナス」という仕組みを導入する企業も増えている。

バリュー評価

バリュー評価とは、会社の価値観を行動指針に落とし込み、この行動指針にどれだけ取り組めたかを評価する方法。

物やサービスが飽和し、スピード感や行動力が必要な時代。従業員に「この会社の価値は何だろう?」と考えさせ、自発的に行動させることで企業のさらなる発展が見込める。

情報のオープン化

人事評価や等級は非公開にすることが一般的だった。しかし、あえてこれらを公開することで、従業員の人事評価に対する納得感を高めることができる。

また、評価や等級だけでなく評価の基準や過程をオープンにすることで、どうすれば自身の評価を上げることができるのか把握でき、モチベーションの向上に寄与すると言えよう。

最新のトレンドを反映した人事評価制度を導入している事例を3つ紹介。メルカリ、アドビシステムズ、ISAO
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最新のトレンドを反映した人事評価制度を導入している事例

メルカリ

メルカリは、「ピアボーナス制度」を取り入れており、バリュー評価を可視化できるように工夫している。

具体的には「mertip(メルチップ)」と呼ばれる制度で、従業員同士でリアルタイムに感謝、賞賛し合うと同時に、インセンティブとして一定額の金額を贈り合えるようにしている。

感謝を目に見えて伝えることができるため、チーム内や他部署との仕事の調整がしやすくなったり、従業員同士で「仕事を見てくれている」感を感じることができるようになったたりと、仕事に対する満足度が向上しているようだ。また、このメルチップの情報を評価時期に参照できるようにすることで、より適切なバリュー評価を実現している。

参考:贈りあえるピアボーナス(成果給)制度『mertip(メルチップ)』を導入しました。

アドビシステムズ

アドビシステムズは、「チェックイン」と呼ばれる制度を導入しており、業務進捗についてではなく「私について」上司と従業員が定期的な面談を行うことで関係性を構築することに成功している。

また、等級やランク付けなどの評価を廃止し、上司の給与の裁量権を任せることで、従業員の人事評価に対する満足度が上がり、離職率の低下にも貢献している。

参考:「Check-in(チェックイン)」~双方向のコミュニケーションを大切にするアドビの評価制度~

ISAO

ISAOでは一般的な等級制度をアレンジして、部署や管理職が不在の「フラット」で「権威をつくらない」等級制度を実現している。

また、評価してくれる人を自ら指名することができ、2~7名の人からの360度評価に基づいて等級が決められる。これにより、これまで管理職だった人は部下の育成責任から解放され、自身のキャリア形成に専念できる。さらに、評価者を自分で選ぶことができるため、自身の評価への納得感が高まっているようだ。

参考:評価者を「自分で」選ぶ。通年リアルタイムで昇降級する「権威を作らない」等級制度

まとめ

従業員の能力や企業への貢献度に対する価値を評定し、賃金や昇進などの処遇に反映する人事評価制度は、モチベーションや生産性の向上、最終的には企業の業績向上に寄与するため多くの企業がより良いものを構築しようと努力している。

従業員の評価方法には様々な種類があるので、企業の業種や理念、文化に合った方法を選択し、改善を繰り返すことで確固たる人事評価制度を確立していく必要があると言えだろう。

一方で、うまく機能しないと従業員の不満を抱くといった問題が生じる恐れがあるため、評価基準を明確に示したり、公平性を持たせたりなどの工夫が重要である。

この記事でご紹介した人事評価の目的、具体的な評価方法、最近の導入事例を参考にし、企業の人事評価制度に活用していただければ幸いだ。