
人事の仕事とは。5つの業務と必要な能力、高められるスキル、キャリアプラン
人事という職種は、採用マーケットにおいては常に一定の人気がある。昨今ではメガベンチャーの人事が組織づくりについてイベントに登壇することも多く、その姿に憧れを抱く人も多い。
外部環境を見ても、新型コロナウイルスを経ての「ニューノーマルの到来」によって、各企業は採用手法や働き方の転換・変化を迫られている。
「今の制度をどのように変えて運営すべきか」といったことから、「どのような組織を目指すか」まで、経営層と共に戦略的に考える人事の必要性が高まっていることは間違いない。需要高まるこのタイミングで、未経験から人事へのキャリアチェンジを考えている方もいるだろう。
人事といえば、採用業務の担当であるイメージが強いものの、仕事内容はかなり多岐にわたる。この記事では、人事の仕事内容ややりがいを整理した上で、人事の仕事を通して身に付くスキル、さらに人事から目指せるキャリアプランについて解説していく。
企業内における人事部の位置付けとは?
まずは、人事部が企業内においてどのような位置付けにあるのかを、あらためて整理してみよう。
ヒト・モノ・カネ・情報の「ヒト」を担う
経営資源は「ヒト・モノ・カネ・情報」の4つから構成されるが、このうち「ヒト」を最大限活用するための戦略設計や施策実行を担うのが、人事部の役割である。
ヒトがカネを動かし、ヒトがモノをつくり、ヒトが情報を集めて活用する。ヒトの働きが3つの資源活用に直結することから、4つの経営資源の中でもっとも重要なものだと言い切れるだろう。
また、ヒトは感情や意志を持った生き物である。他の資源と比べてコントロールが難しいため、人事部主導の戦略やマネジメントが肝になるのだ。
企業の発展、組織の活性化が目的
幅広い業務を担う人事だが、すべては「人材によって組織を活性化させること」と「企業成長のため」である。
経営者がミッションを掲げ、ビジョンを描き、リーダーシップを発揮するだけで企業が成長するわけではない。ミッションとビジョンに共感して集まった、主体的に自らの役割を果たすメンバーの力があってこそ、相乗効果が生まれて企業は成長できるのだ。
優秀な人材を採用すること、社員一人ひとりがモチベーション高く働ける制度やしくみを作ることなど、いろいろな手段で組織を盛り上げ、企業の発展を支えるのが人事の役割だ。
人事部の業務内容
次に、人事部の業務範囲はどの程度におよぶのかをあらためて整理してみよう。

採用
採用計画に基づいて、必要な人材を採用する活動である。
数年後の中核人材になれる若手を採用する新卒採用と、今不足しているポジションや組織を強化するために即戦力人材を採用する中途採用の両方があり、採用方針や経営状況によって実施可否や採用人数は変動する。
一言で「採用」と言っても、やるべきことは多い。
人材紹介会社との連携や求人媒体への出稿、就職フェアへの参加、会社説明会やオリジナルイベントの開催など、あらゆる施策を行う。採用候補者の選考はもちろん、内定者の採用後フォローや入社後フォローなども重要な仕事だ。
人材育成
従業員の成長は企業の成長に直結する。従業員の成長をサポートするための研修や教育制度の整備も、人事の仕事だ。
現場のニーズや課題に耳を傾けながら、新入社員・中堅社員・管理職社員など、それぞれのフェーズに応じて必要な教育機会を提供し、一人ひとりのさらなる能力開発を支えなければならない。
研修のすべてを人事が前に立って行うことは少なく、外部の企業と連携しながら、研修をコーディネートする役割を担う。
人事企画
経営目標を達成するために、適切な部門構成や人員配置を行い、採用計画を練ることである。すべての人事業務の根本にあると言ってもいい。
人事企画を行う上では、経営戦略や事業戦略を正しく理解できなければならない。また、経営層の意向と現場の状況の両方を考慮しながら最適な体制を考えられる、視野の広さが必要である。
人事制度管理
社員の能力や業績を適正に評価し、成果を挙げた人が還元を受けられるしくみを作ることも人事の仕事である。
具体的には、目標管理制度や評価制度、昇格や給与体系のしくみづくりなどが挙げられる。社員がモチベーション高く、長く働き続けられるように、透明性・公平性を持った人事評価制度を構築・運用しなければならない。
労務管理
社内全体の業務が円滑に行えるよう、労働に関する環境を整える業務である。
労働時間管理、給与計算、福利厚生の管理、社会保険手続き、安全衛生管理、労使関係管理に加えて、健康診断の実施なども主導する。
最近では、過労死やうつ病の発生が社会問題になっているため、メンタルヘルス対策を行うことも業務範囲に含まれる。労働法規に関する幅広い知識が必要だ。

人事に必要な能力、求められるスキル
5つの業務内容を踏まえた上で、人事にはどのような能力やスキルが必要であるのかを見ていこう。
情報収集力
ヒトに関する情報と、社会の動きに関する情報のどちらもにアンテナを張っておく必要がある。
ヒトに関しては、一方的に「こうあるべき」と決め付けて戦略を策定したのでは、現場からの信頼が得られない。社員がどんな要望を持っているのかや何に困っているのか、あるいは愚痴なども含めて現場の声を拾い上げ、評価や福利厚生などの人事制度への反映を検討すべきである。
また、社外での情報収集力も必要だ。人事同士のコミュニティに参加したり、他社のケーススタディに学んだり、法律の改正や社会の動きに目を向けたりと、常に情報をアップデートして、施策や制度として社内に還元することを求められる。
コミュニケーション能力(聞く・伝える)
社内外の多くの人と関わるポジションであるため、相手の声に耳を傾け、自分の意見を伝える能力は必須だ。
社内では、経営層・マネジメント層・メンバー層などあらゆる社員と連携を取らなければならない。人と向き合い、真摯に耳を傾けつつ、自分の意見や会社の方針を伝えなければならない。
採用活動においては「企業の顔」となるため、採用候補者に慕われる人柄であることや、こまめな連絡を怠らないことなども求められる。その他、採用・研修系サービス提供会社の担当者や、社会保険労務士や産業医などの専門家とともに仕事を進める機会も多いため、さまざまな立場の人とスムーズに話し合いを進められることが重要だ。
戦略構築力
人事は、「人材によって組織を活性化させ、企業を成長させる」という人事部の目的のもと、課題を抽出し、目標達成のためにその課題をどのようにして解決するかを考え、動く役割である。
採用・育成・制度整備など複数の手段があるからこそ、現状を客観的に分析して、最適な課題解決や目標達成の方法を選び、優先順位を付けて施策を実行できることが望ましい。
マルチタスク処理能力
ご覧の通り、人事が手掛ける業務範囲は広い。大企業の人事部は業務内容によって担当が分かれていることも多いが、中小企業では多岐にわたる人事業務を数人もしくは一人で担当することが一般的である。
定型業務と突発的な業務の両方に柔軟に対応できて、タスクごとに頭の使い方を柔軟に切り替えて対応できることが望ましい。
高いコンプライアンス意識
企業は、法律や条例はもちろん、社会的規範や社内規定、就業規則などのあらゆるルールを守る義務を負っている。
インターネットで一人ひとりが声をあげやすくなったことで、コンプライアンス違反が明るみになる例も増えている現在、企業の社会的信用を守るためにもコンプライアンス遵守は大切だ。
コンプライアンスについてきちんと理解しており、コンプライアンス違反が起きない環境づくりへの高い意識を持っていることが求められる。
人事に向く人
スキル面に続いて、マインド面ではどんな人物が人事に向いているのかを見ていきたい。

好奇心旺盛な人
人事は人と向き合う仕事である。社員に対する興味や関心を持てないようでは、社員も人事に相談しづらくなり、現場との溝が開いてしまう。
最適な人員配置や現場との円滑なコミュニケーションを実現するには、普段から社内を見渡してついつい観察してしまうような、好奇心旺盛な人が望ましい。
この好奇心は採用担当としても活かせる。人と接することが好きで、常にエネルギッシュに活動している人事は、採用候補者にとっても魅力的に映るはずだ。
脇役として陰で人や組織を支えることが好きな人
採用活動においては、企業の最前線に立つため華やかに映る人事の仕事だが、それ以外の業務は評価されづらくあまり日に当たらない。
採用した人物が社内で活躍したときは、その人自身の能力の高さが脚光を浴びる。新入社員が効果的な研修を受けて順調に育ったときも、その人自身の能力や彼をサポートした上司が評価されるためだ。
直接的に褒められることは少なくとも、「社員の喜びは自分の喜び」と捉えることができ、縁の下の力持ちとして人や組織を支えることにやりがいを感じられる人が向いている。
ルーティンを楽しめる・改善を考えられる人
人事部は管理部門であるため、調整ごとや定型的な仕事も多い。採用活動においては候補者との連絡や社内関係者との調整に追われるし、人事制度管理や労務管理など人事業務の中でも「守り」にあたる仕事では、定型業務が多くを占める。
そんな中でも、目の前のただこなすのではなく、「どうすれば、一つひとつの業務をより効率化できるか」と、常に改善思考で取り組めることが望ましい。
人事で高められるスキル
続いて、人事業務を通してどのようなスキルを身に付け、磨いていけるのかを見ていこう。
人を動かすコミュニケーション能力
毎日、あらゆる立場の人と関わる仕事であるため、自然とコミュニケーション能力は磨かれる。ただ経営層や現場の意見を聞くことだけが、コミュニケーションではない。
相手の意見を聞いた上で自分の意見を伝える機会が多いと、「組織活性化のために、次は自分からこんな提案をしてみよう」といったアイデアも湧くようになる。
採用の場面では、採用候補者の志望度を上げてもらうためにコミュニケーションの工夫が求められる。そうした経験を通じて、「聞く・伝える」からレベルアップして「人を動かす」コミュニケーション能力が高められていくのだ。
経営視点での戦略思考
優秀な社員の入社によって売上が大きく上がったり、管理職のマネジメントスキル向上によって組織が円滑に回るようになったりするシーンがある。このように、人事は業務に取り組む中で、人事戦略と戦略に基づいた施策が会社の成長を大きく左右することを実感する場面に多く出会うだろう。
トライアンドエラーを重ねる中で、人事戦略を考えるために企業の事業戦略や経営目標を深く理解することは欠かせないと思うようになり、経営視点が磨かれていく。
関連記事:人事担当者に問う、「採用に、経営目線を持てているか」
進捗管理能力
マルチタスクに取り組む中で、タスクに優先順位を付けることやタスクを行うための段取りがスムーズにできるようになり、進捗管理能力が磨かれる。
タスク管理ツールやプロジェクト管理ツールも必要に応じて利用しながら、スケジュール通りにタスクを進められる力と、自分だけでなく同僚や部下の進捗管理も担える力が身に付くだろう。
ブランディング能力
自社の魅力を高めて、採用候補者からの意向を上げる「採用ブランディング」という言葉がよく聞かれる。魅力の構成要素はさまざまあるが、働きやすい環境づくりや成果が正当に評価される仕組みづくり、福利厚生など、人事が主導して高められるものも多くある。
魅力が高まれば、採用候補者に志望してもらえることはもちろん、現在働いている社員も「退職せず働き続けたい」と思うようになる。つまり、社内外でファンを作ることも人事の役割なのだ。
求められていることを汲み取って、自社をブランディングしていく能力も、人事業務を通じて身に付けられる。
人事のキャリアプラン例
人事業務を通じて、どこでも通用する汎用的なスキルを高められるように思える。
では、人事はキャリアを積み、スキルを磨くことでどのようなキャリアプランの選択肢を持てるのだろうか。考えられる幾つかの例を挙げる。

企業で人事として上り詰める
人事部のいちメンバーからリーダー層へ、そして人事部の責任者へと、人事部内で昇進を重ねていくキャリアである。
メンバー時代は施策実行を担う立場だったのが、リーダー層になって研修や制度設計に携われるようになり、部門責任者になると人事戦略を策定する立場になるなど、役職が上がるのに応じて業務範囲も広がる。
もちろん、部下の育成やマネジメントも管理職の重要な任務であるため、後進の育成にやりがいを感じる人にも最適だ。
人事部長などがこのキャリアにあたるが、最近ではスタートアップ企業を中心に「CHRO(最高人事責任者)」と呼ばれるポジションも重用されている。CHROは、人事権を持った経営幹部だ。
従来の人事部長は、経営陣が決定した戦略に則って人事企画や施策の実行を主導する役割だった。一方CHROは、経営戦略について人事的な視点から経営陣に意見を伝える役割を担う。
広報(採用広報)への異動・転職
採用難の時代であり、かつ採用候補者が条件だけでなく価値観やカルチャーの合う企業を探す時代になった。そのため、就職先や転職先として認知・検討してもらうために企業の情報発信を行う「採用広報」の役割が近年は重要視されている。
求人情報だけでなく、オウンドメディアやSNSで会社の魅力や文化、社員の姿を紹介する企業が増えている様子からも明らかだ。
採用広報を効果的に行えている企業は、就職先・転職先として人気になり、ミスマッチも少ない。採用業務の経験もあり、社内のことをよく把握している人なら、コンテンツ作りもスムーズに進められるため、広報として社内の採用成功に貢献する道もある。
研修/採用/人事コンサルティング企業への転職
研修や採用、人事業務全般のコンサルティングなど、HR領域には多様なプレイヤーがいる。そうした企業に転職して、クライアントを支援するキャリアも選べる。
過去の成功・失敗経験をもとに、元人事担当者だからこそ親身になってアドバイスできることもあるため、クライアントからの信頼も得られやすいだろう。
フリーランス人事
研修や採用を支援する立場や、人事コンサルティングを行う立場として、独立する人事も増えてきている。
「人事のプロフェッショナルから知見を得たい」「企業内人事のパートナーやアドバイス役として、深く入り込んでサポートしてほしい」といった企業側のニーズが高まっているからだ。
柔軟性のあるフリーランス人事を魅力的に思う経営者や人事は多くいる。
人事が人気職種なワケ
もともと人事は、採用市場で人気のポジションだった。最近は、その人気がさらに増している。その理由を見ていこうう。
どの業界・どの企業にも人事は絶対に必要
当たり前だが、人事を必要としない業界や企業など無い。どの企業も採用活動を行うため、「採用難の時代に、どうやって人材を獲得するか」は共通の課題である。
たとえ採用にそれほど困っていなくても、育成や制度設計など、社内のヒトに関する領域で悩んでいない企業は無いだろう。業界や規模にかかわらず、さまざまな企業が優秀な人事を求めている。
スタートアップCHROの台頭
スタートアップ企業におけるCHROの台頭によって、「人事が担っている役割が、企業成長においてとても重要である」という認識があらためて広まっていることも、人事の人気が加速している理由のひとつだ。
ただ、期待されているのは、人事部としての目標を達成して業務を滞りなく回すことではない。経営層の一人や代表取締役の参謀のような存在として、「経営目標を達成するための、人事戦略や具体策をどんどん進言してほしい」と思われているのだ。
CHROはもともと海外企業で生まれたポジション。海外進出を行う企業や外国人人材の採用が進む企業でも、積極的に登用する流れになるかもしれない。
新型コロナウイルス感染拡大により働き方改革が加速
2020年、新型コロナウイルス感染拡大により、図らずも働き方改革が進んだ。テレワークに移行したことで、マネジメント方法、評価指標、労働時間管理などが従来のものではうまく機能しなくなり、見直しを迫られている。
この状況を一過性のものとは思わず、新しい働き方を整備する機会だと捉えて、最適な制度や環境の整備に取り組まなければならない。前例の無い改革を主導できる人事を、どの企業も必要としている。
まとめ
企業の規模や成長ステージによって、一人の人事が担う業務内容や期待される役割は異なる。だからこそ、自身のキャリアプランを描いた上で、必要なスキルを獲得できる企業で人事経験を積むことが望ましい。
以前から人気職種だった人事は、時代の変化に合わせて業務範囲が広がっている。さらに、今まで以上に「経営と切り離せないポジション」という認識が生まれ、大きな期待を寄せられている。
どこで働くにしても、経営視点と世の中の流れを踏まえて自社の環境整備に反映させられる能力は、以前より求められることになるだろう。

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